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東京高等裁判所 昭和45年(行コ)20号 判決 1973年3月14日

第一九号事件控訴人(原告) 株式会社中小企業助成会

第二〇号事件控訴人(原告) 藤田政輔

被控訴人(被告) 東京国税局長

訴訟代理人 山田二郎 外二名

主文

原判決を取り消す。

被控訴人が昭和三七年一月一八日付書面をもつてした控訴人株式会社中小企業助成会の昭和三二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税に係る審査決定は、これを取り消す。

被控訴人が昭和三七年一月一八日付書面をもつてした控訴人藤田政輔の昭和三二年分の所得税に係る審査決定はこれを取り消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、主文同旨の判決を求め、被控訴人指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張および証拠関係は次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する(ただし原判決五五枚目表一〇行目「延べ」を「述べ」と、同六六枚目表末行「一四三、五一二、九五〇円」を「一四三、五三二、九五〇円」と、同八〇枚目表末行「原告と藤田」を「原告藤田」と、同八五枚目表終りから二行目および同八六枚目裏末行の「菊地寛実」をいずれも菊池寛実」と、同九〇枚目用一〇行目

「謄貴」を「騰貴」と、同一〇六枚目裏一〇、一一行目「同第三〇号証から同第三四号証まで」を「同第三〇号証、同第三二号証から同第三四号証まで」とそれぞれ訂正する。)。

控訴会社代理人は、次のとおり述べた。

一、(一) 被控訴人は、法人税法(昭和二二年法律第二八号、以下同じ。)第三一条の三第一項末尾の「計算することができる。」というのは、規定の文字どおり、課税処分を行うことを意味しているのではなく、課税標準、欠損金額、法人税額を計算することをいうものであり、課税処分ではないから、税務署長でなければできないことではない、と述べている。しかしながら、法人の脱税対策として課税処分を規定した条件は、法人税法第二九条ないし第三一条および第三一条の三の四ケ条だけであり、前三条は、一般の場合に適用される条文であり、第三一条の三は、同族会社に限つて適用される特別な更正又は決定であり、内容の特徴としては、一般の更正又は決定に比し行為計算の否認という強権が伴う点である。同条は、政府は、更正又は決定をする場合において云々と規定している。これは、同条に規定する同族会社の認定、行為計算の否認課税、標準等の独自の計算という一連の処分が更正又は決定の一態様として行う決意であること、即ち、更正又は決定をする場合において何々することができる、というのは、普通の更正又は決定の手続のほかに否認権を行使することができるという意味であること一点の疑いのないところである。

(二) 被控訴人は、行為計算の否認は、課税処分そのものではなく、課税客体を確定する行為であり、更正又は決定の前段階の行為である、ともいう。更正又は決定という課税処分は、課税客体の決定を内容とする処分であり、それ以外の何ものでもない。課税客体の確定した後に別に行われる更正は決定などということはありえないのである。被控訴人の主張によれば、同族会社の更正又は決定については法人税法第三一条の三を適用した否認と計算のほかに、さらに更正又は決定という課税処分が存在することとなる。しかし法文にはさような手続は規定されていない。課税標準等の計算が最終手続であり、それで第三一条の三の適用は完了する。従つて本件の如く第三一条の三を一〇〇%適用し、課税標準の計算まで含む処分を行つたのに、なお課税処分をしていないと解するならば、同族会社については課税処分はできないという結論に達する。仮りに法の規定を超越して第三一条の三の規定を適用した後に、更正又は決定するとしても、課税標準につき同条を適用し算出した数字と重複して示す以外にやり方は考えられない。要するに、被控訴人が第三一条の三の計算についで別に更正又は決定処分する如く主張するのは、法の曲解にほかならない。法人税法第三一条の三を適用した処分は、前記の如きいくつかの一連の行政処分を総合した特殊な更正処分たる課税処分であり、課税標準等の計算は、最終の行為であつて、その計算金額を納税者に通知すれば、その人の納税額が法の規定に基づいて自動的に決定するのであり、計算の後に何らの処分の行われる余地も必要も存しない。

(三) 被控訴人は、同族会社の行為計算の否認は、課税処分ではないから、税務署長でなければできないことではなく、審査の段階においても又訴訟の段階でも可能であると主張する。法人の所得申告が過少である場合又は申告のない場合に課税処分が行われるのであるが、その根拠規定は、前述のとおり、法人税法第二九条ないし第三一条および第三一条の三である。しかるに被控訴人主張の如く、第三一条の三の規定は課税標準等の計算規定であり、課税処分ではないとすれば、同族会社に対する特殊の課税処分の規定は存しないことになる。次に税法は、課税標準等の更正又は決定する権限を税務署長の専権としている。第三一条の三は特殊な更正又は決定の手続であり、同族会社との認定、税負担を不当に減少するとの認定、行為計算の否認という他に類例を見ない強権の発動を認めた規定である。普通の更正又は決定すらも税務署長の専権と規定しているのであるから、かような強権の行使には行使権者と行使する場合を法定することは当然である。この点において法人税法第三一条の三は、行使権者を税務署長に限定し、更正又は決定する場合に限定している。税務署長でなくてもできる、審査の段階でもできると断言するは、法の規定を無視する暴論というべきである。

(四) 被控訴人は、同族会社の行為計算の否認規定は、課税標準に関する計算規定であつて、この点において推計課税に関する規定(法人税法第三一条の四)等の計算規定と同趣旨であるということができるのであり、これら課税標準等の計算の是正は、ひとり税務署長だけではなく、審査の段階においてもまた訴訟段階においても可能であると解される、と述べている。しかし被控訴人の援用した法人税法第三一条の四は、「第二九条乃至第三一条の規定による課税標準又は法人税額の更正又は決定をなす場合においては、当該法人の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模により各事業年度の所得金額を推計してこれをなすことができる」と規定している。「これをなすことができる」とは、更正又は決定をなすことができるという意味であるから、この第三一条の四の所得金額の推計が更正又は決定処分の一部として行いうる法意であること疑いをいれない。第三一条の四の推計にしても第三一条の三の計算にしても被控訴人は、単なる事実行為であるかの如く解しているようであるが、これらの計算は、それによつて課税標準が確定するという法律効果を伴う行政処分であるから、法律に定めた権限ある者即ち税務署長でなければなしえないこと明白である。権限行使の場合についても法律は明かに更正又は決定をなす場合においてと限定しているから、更正又は決定の場合に税務署長の専権として認められた処分であること明白であり、審査又は訴訟の段階で税務署長以外の者がなしうるという被控訴人の主張は、法を無視した暴論である。審査又は訴訟においては税務署長のなした計算処分の正しいかどうかを問題とすることができるにとどまる。

二、原判決のように日本土地、日産火災、日本鉱業がいわゆる日産コンツエルンこの傘下にある会社であることが認められるというのは、驚くべき誤認である。戦前わが国に財閥又はコンツエルンが存在したことは事実である。しかし財閥解体の占領軍の至上命令によつて昭和二二年すべての財閥又はコンツエルンは、持株整理委員会によつて整理されたのである。財閥の解体とともに昭和二二年四月現行の私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律が制定され、その第九条によつて一切の持株会社の設立は禁止され、財閥又はコンツエルン復活の途は閉鎖されたのである。そして日産コンツエルンは、占領軍の指令を待つまでもなく戦時中にすでに解消していたのである。戦前日本産業を特殊会社として日産コンツエルンが存在したのであるが、同社は、昭和一二年満州重工業開発株式会社と改組改称して満州国に移籍するとともに、満州開発に要する資金調達のため、保有株式を売出し、昭和一八年五月日本鉱業株式の売却を最後として国内の同系会社の持株全部を売り尽したのである。従つてその後元の子会社である各会社は、資本的にも人的にも個々別々の歩みをつづけ、コンツエルンの形式も実体も消滅したのである。かようにして解消した日産コンツエルンが戦後に復活する筈がない。

三、控訴会社の主張を総合し、要約すると次のとおりである。被控訴人の審査決定は、二つの処分を包含している。法人税法第三一条の三を適用して控訴会社を同族会社と認定し、法人税の負担を免れるものと認定し、否認権を行使して一億八、九〇〇万円を控訴会社の利益に加算し、同時に控訴人藤田に対する贈与と認め、これに基づいて控訴会社の所得金額を九、〇八九万二、二八〇円と計算した処分(前段処分)とこれを理由として控訴会社の審査請求を棄却した処分(後段処分)とであるが、前段処分は、次の点で違法であり、取り消さるべきである。

(1)  法人税法第三一条の三の規定は、更正又は決定する場合に税務署長に限り認められた専権である。本件において被控訴人が審査決定の場合にこれを適用したのは、違法である。

(2)  控訴会社を同族会社と認定したのは、法令と同一視すべき国税庁長官の基本通達に違反し、基本通達に従つて認定したものとの間に差別を生じ、税法の生命たる公平の原則を犯し、違法である。

(3)  審査決定の段階で同族会社の認定と行為計算の否認と課税標準の決定という一連の処分をした場合には、同族会社の認定と行為計算の否認が法律の要件を欠き誤りであるという理由で不服申立をしようとしても、再調査と審査請求を求める途がない。これは、被控訴人が審査決定の名において実質上の更正をするという誤りをおかしたため、救済手段を剥奪することになつたのである。かような審査決定は違法である。

(4)  本件における控訴会社の所得金額を税務署長は、八、八一四万六、九〇〇円と計算したのに被控訴人は、九、〇八九万二、二八〇円と計算した。これは不利益変更禁止の規定に反し、違法である。

(5)  税負担を不当に免れたとの認定は、事実の誤認であり、違法である。

後段処分は、次の点で違法であり、取り消さるべきである。

(6)  被控訴人が控訴会社の審査請求の理由の存否に触れることなく、全く別の事由によつて請求を棄却したのは、審査請求の理由のないときに棄却の決定をなすべきことを定めた法人税法第三五条の規定に反し、また審査制度の本質に反し、昭和三八年一〇月二八日最高裁判所第三小法廷判決が示した昭和二五年法人税法等改正の本旨にも反し、違法である。

(7)  青色申告法人に関する法人税法第三二条の規定の趣旨に反し、違法である。

(8)  「審査決定は不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなければならない」旨判示した昭和三八年五月三一日最高裁判所第二小法廷判決(昭和三六年(オ)第八四号事件)に反し、違法である。

(9)  審査決定の理由としては、不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなければならない、とした昭和三七年一二月二六日最高裁判所第二小法廷判決(昭和三六年(オ)第四〇九号事件)に反し、違法である。

(10)  税務署長が旧法人税法第二五条第八項各号のうちの一にあたる事実があるとしてなした青色申告書提出承認取消処分に対する同法第三五条の審査決定において、審査庁が、他の号にあたる事実があるとして右承認取消処分を維持し、審査請求を棄却することは許されないとした昭和四二年四月二一日最高裁判所第二小法廷判決(昭和三九年(行ツ)第三三号事件)に違反し、違法である。

控訴人藤田政輔代理人は次のとおり述べた。

一、被控訴人が控訴人藤田が同族会社である控訴会社の株主であり、かつ同会社の取締役会長鮎川義介と特殊関係にあるからとして、直ちに同族会社に関する所得税の規定を控訴人藤田に適用したことは不当である。

二、仮りに控訴会社が同族会社であるとしても、その同族会社判定の基礎となる株主は、上位大株主である日本鉱業、日立製作所、日産ビルであつて、控訴人藤田および被控訴人が控訴人藤田と特殊関係にあるという鮎川義介は、この同族会社判定の基礎たる株主には含まれていない。即ち、控訴人藤田の同社株の所有は一万五、〇〇〇株、鮎川の同社株の所有は五万株、この合計六万五、〇〇〇株で、同社の発行済株式総数四七〇万株に対し一%余にすぎない。なお、同社の株主総数は三七名で、その大部分は非同族の法人株主である。同族会社の行為又は計算の否認規定は、同族関係者が多数の議決権を有するので、比較的利害を同一にしている同族関係者の意思によつて会社の行為又は計算を自由にすることができ、会社と株主を通じて租税負担を不当に軽減することも容易であるところから、課税の公平を期するために設けられたのである。従つて同族会社と同族会社の要件を構成した大株主間の取引について適用さるべき規定であつて、要件を構成しない第三者と同族会社間の取引に適用すべき規定でないことは明白である。そうとすれば控訴会社と同族関係者である日本鉱業との間の取引についてその当否を判断すべきであるのに、被控訴人は、両者間の取引にはなんら触れることなく、日本鉱業となんら関係のない控訴人藤田と控訴会社との取引について同族会社の行為又は計算の否認規定を適用したことは不当である。

被控訴人指定代理人は、次のとおり述べた。

一、本件当時の法人税法第三一条の三第一項末尾「計算することができる」というのは、規定の文字どおり、課税処分を行うことを意味しているのではなく、課税標準、欠損金額、法人税額(課税標準等)を計算することをいうものである。それで審査庁においては、審査請求が提起された場合、納税者の課税標準等をあらためて計算しなおして、その結果が税務署長の行なつた課税処分より下廻らないかどうかを審査することになるのであつて、右行為又は計算の否認規定の趣旨は、他の計算規定と全く同義のものである。即ち、同条第一項の同族会社の行為計算の否認規定中「政府は、(中略)計算することができる。」とは、課税標準等の計算ができるということであつて、新たに課税処分をすることを意味することではない。従つて右行為計算の否認は、税務署長でなければならないことではない。このことは、課税処分の適否が争われた場合に、審査庁や裁判所が課税処分の理由(計算)に拘束を受けずに、課税客体ないし課税標準の存否について計算ないし審理ができると解されているのと全く同様であるということができる。

従つて法人税法第三一条の三所定の否認規定は、課税標準等に関する計算規定であつて、この点において推計課税に関する規定(改正前の法人税法第三一条の四、現行法第一三一条)等の計算規定と同趣旨であるということができるのであり、これら課税標準等の計算の是正は、ひとり税務署長だけではなく、審査段階においてもまた訴訟段階においても可能であると解されるのである。法人税法第三一条の三の同族会社の行為又は計算の否認規定に基づき審査庁が課税標準等を計算しなおしたことをもつて課税処分と同一視することは、正当でないというべきである。

二、日本鉱業、日本土地、日本火災および控訴会社の各社は、相互間にいわゆる日産コンツエルンの主宰者であつた鮎川を介して特別な縁故関係にあり、戦後日産コンツエルン解体後も、株式の持合い、資金の融資などを通じてそのコンツエルンの関係を継続しているのであつて、その詳細は、別紙準備書面記載のとおりである。

三、控訴人藤田は、同人が控訴会社の株主であり、取締役会長鮎川義介と特殊関係にあるからとして、同族会社に関する所得税法の規定を適用したのは、不当である、と主張する。しかしながら、当時の所得税法第六七条は、「同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合においてその株主若しくは社員又はその親族、使用人等その株主若しくは社員と特殊の関係がある者の所得税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、(中略)更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより(中略)計算することができる。」と規定する。即ち、控訴人藤田は、同族会社である控訴会社の株主であり、取締役会長である鮎川義介と特殊関係(実弟)にあつたこと、控訴人藤田が控訴会社に譲渡した帝石株の取引価格は、譲渡時における時価に比べて不当に高価であると認められたことから、控訴人藤田と控訴会社間の取引について、同族会社の行為計算否認の規定を適用したのであり、なんらの違法はない。

次に控訴人藤田は、同族会社の行為計算否認の規定は、同族会社の要件を構成しない者と同族会社間の取引には適用すべきでない、と主張する。法人税法第三一条の三が、「政府は、(中略)課税標準若しくは欠損金額又は法人税額の更正又は決定をなす場において、同族会社の行為又は計算で、これを容認した場合においては法人税の負担を不当に減少させる結果となるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、政府の認めるところにより、当該法人の課税標準若しくは欠損金額又は法人税額を計算することができる。」と規定するとおり、第一に「同族会社等の行為又は計算」が対象であること、第二に「これを容認した場合においては法人税の負担を不当に減少させる結果となるものがあるとき」であること、これら二つの条件の双方に該当するときに右否認の規定の適用が認められているのである。従つて同規定では同族会社の「行為又は計算」といつており、その相手方が同族関係者であるか、その他の者であるかは、関係がないのであり、当該法人が法人税法第七条の二に掲げる同族会社であれば足りるのである。

証拠<省略>

理由

第一、控訴会社の請求について

一、控訴会社の請求原因第一、二項の事実および麹町税務署長が控訴会社に対する原処分をするに当り、控訴会社が昭和三二年一月一一日控訴人藤田から帝石株四五〇万株を一株当り一五七円〇五銭で買受け、その三日後である同月一四日にこれを日本鉱業に対し一株当り一一五円で売渡したと認定し、その差額一億八、九〇〇万円につきこれを控訴会社が控訴人藤田に贈与したものと認め、法人税法第九条の規定を適用して寄附金計算をし、その限度超過額一億八、六二五万四、六九一円を否認し、同額を控訴会社の利益に加算したこと、被控訴人が審査の結果、控訴会社が同族会社であり、控訴会社のなした行為計算否認の規定(法人税法第三一条の三)を適用し、正当な税務計算をしたところ、課税標準としてはむしろ右控訴会社に対する原処分より多い額が算出されたので、控訴会社の審査請求を棄却したことは、いずれも当事者間に争いがない。

二、(一) 控訴会社は、被控訴人が控訴会社の審査請求の理由の存否に触れることなく、全く別の事由によつて請求を棄却したのは、違法である、と主張する。

前記当事者間に争いのない事実、いずれも成立に争いのない原審昭和三七年(行)第三四号事件甲第三、四号証(以下同事件の甲号証を単に甲第〇号証という。)によれば、控訴会社は、更正処分において帝石株の取引時の価額を一株一一五円と認定しているが、一三六円が正しいこと、又控訴人藤田から取得した実質価値を一株一五七円と認定しているが、これも一株一三六円が正しいことを理由に更正処分の取消しを求めて審査請求をしたこと、被控訴人は、右審査請求を棄却したが、審査決定通知書(甲第四号証)には、「貴社の審査請求の趣旨である貴社が購入した帝国石油株式会社の株式四五〇万株の取引について審理しますと、(1)貴社は、日本鉱業株式会社を主体とする同族会社であること。(2)藤田政輔は、貴社の取締役会長鮎川義介と特殊関係にある株主であること。(3)貴社が買入れた帝国石油株式会社の株式の買入れ当時における実質価額一株当り一五七・〇五円は適正と認められる一株当りの時価一一五円に比し不当に高価であること。以上の事実から判断しこの取引は法人税法第三一条の三の規定に該当します。よつて、上記の適正時価一一五円と購入価額一五七・〇五円の差額の買入株数に相当する金額一八九、〇〇〇、〇〇〇円は貴社の利益に加算すると同時に藤田政輔に対する利益処分の贈与と認めます。なお、その他の原処分の加算及び減算(寄附金に関する部分を除く。)については、誤りを認めません。以上によつて貴社の当年度の所得金額を計算すると九〇、八九二、二八〇円となるので、審査の請求には理由がありません。」との理由が付記されていることが認められ、右決定理由によれば、被控訴人は、控訴会社の審査請求についてその主張する理由以外の理由に基づいて判断していることが認められる。昭和二五年に改正された法人税法の審査手続においては、従前の覆審的に新たに課税標準を決定しうる趣旨の規定(昭和三八年一〇月二九日最高裁判所第三小法廷判決参照)を改めて、審査請求の対象となつた処分の当否のみを判断することになつたのであるが、右手続には訴訟における如く弁論主義が適用されず、職権主義が採用され、従つて審査の範囲は、審査請求の理由に拘束されることなく、又職権で審査請求人の提出しない証拠を取り調べることもできるのであつて(選挙の効力に関する訴願についてであるが、昭和二九年一〇月一四日最高裁判所第一小法廷判決参照)、当該審査請求の対象となつた処分の当否を判断するに必要な範囲全般に及ぶものと解すべきである。本件についていえば控訴会社の審査請求の対象は、当該事業年度の課税標準および法人税額についての更正処分の当否であつて、その審査の範囲は、更正の理由のみに限定されるものではなく、又控訴会社の主張するように審査請求の理由のみに限定されるものでもない。更正処分の段階において見逃がされていた新たな事実についても審査できるし、又その理由に基づいて処分の当否の判断ができるのである。そしてかく解したからといつて審査請求が国民の権利利益の救済を図るものであるという制度の趣旨にもとるものとはいえないし、法人税法第三五条第五項第二、三号の「審査の請求の全部につきその理由がないと認めるとき」、あるいは「審査の請求の全部又は一部につきその理由があると認めるとき、」とは、原処分に対する不服の申立(審査の請求)自体を不相当あるいは相当と認めることを指しているものであつて、審査請求人が請求を理由あらしめるものとして主張している個々の不服の理由の当否を指しているものではないから、控訴人の主張するように同条に違反するものということもできない。従つて原処分と異る理由によつてあるいは審査請求人の主張する理由と異る理由によつて審査請求を棄却することになんら違法はない。

もつとも控訴会社の掲げる最高裁判所判決(昭和三七年一二月二六日および昭和三八年五月三一日いずれも第二小法廷判決)は、審査決定の理由は、「不服の事由に対応してその結論に到達した過程を明らかにしなければならない」と判示する。審査決定が審査請求人の主張する不服の事由のみについて審査し、判断した場合には、その理由はまさにこれら判決の示すとおりに記載すべきものである。しかしながら前説示のとおり審査請求についての審査の範囲は、審査請求人の主張する不服の理由に拘束されるわけではないから、別個の理由に基づいて審査請求を認容し、あるいは棄却しうるのであつて、前記各判決は、その事案の内容よりみて、かかる場合の決定理由についてまで触れたものではないと解するのが相当である。即ち、審査請求人の主張する不服理由を判断するまでもなく、あるいは右不服理由は相当ではないが、他の別個の理由により原処分が違法もしくは不当で請求を認容する決定をなす場合、反対に審査請求人の主張する不服理由は一応相当であるが、別個の理由によれば原処分は適法であり、結局審査請求を棄却すべき場合に、その決定理由は、その結論に到達した過程を明らかにしておれば足り、その結論とは関係を有しない審査請求人の主張する不服の事由に対応する理由を欠いても法人税法第三五条第五項にいう理由付記の要件を満たしているものというべく、又かく解しても前記最高裁判所の各判決の趣旨に反しないものと考えるのが相当である。本件についてみるに、前記控訴会社の審査請求に対する審査決定通知書に記載された決定理由には、帝石株の取引価格は適正であつて、更正処分において認められた価格はいずれも誤つているとの控訴会社の主張する不服理由に対応する理由が直接示されているものとは認め難いが、被控訴人は、更正処分の理由と異る同族会社の行為計算の否認の理由により控訴会社の審査請求を棄却したものであつて、その理由の記載は、措辞簡に過ぎる嫌いがないとはいえないとしても、一応その結論に到達した過程を示して原処分を正当とする理由を明らかにしているものと解することができ、これにより決定の理由を審査請求人に知らしめる義務を尽しているものということができるから、右理由の記載をもつて法人税法第三五条第五項の要求する要件を満たさない違法のものというのは相当でなく、少くとも多少の瑕疵があるとしても、これをもつて取消しに値する違法の瑕疵ということはできない。従つてこの点に関する控訴人の主張は理由がない。

(二) 次に控訴会社は、本件審査決定は、青色申告法人に関する法人税法第三二条の規定に違反し、違法である、と主張する。青色申告法人に対する更正にあつては、その更正通知書に理由を付記すべきものとされているが(法人税法第三二条)、その趣旨は、「処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるから」(前掲昭和三七年一二月二六日最高裁判所第二小法廷判決)、このことにより前記審査の範囲が法人税法第三一条の四第一項に規定する更正の制限に服することがあつても、原処分の理由の当否に限定され、又は審査請求の理由に拘束されるとは解されない。

三、控訴会社は、被控訴人が審査の段階において法人税法第三一条の三の規定を適用して行為計算を否認してなした本件審査決定は違法である、と主張する。

(一)  前記審査制度は、いわゆる覆審制度ではなく、審査請求の対象となつた処分の当否を判断し、当該処分を正当とするときは審査請求を棄却し、当該処分が正当でないときはその全部又は一部を取り消すことを建前とするものであるから、審査庁が新たな課税標準を確定する処分をすることができないことは、控訴会社主張のとおりであるが、本件において被控訴人は、前示のとおり、同族会社の行為計算の否認の規定を適用して控訴会社の審査請求を棄却したが、右否認の規定の適用は、審査請求を棄却する理由として示したものと解すべきで、控訴会社の主張するようにこれにより新たな課税標準を確定する「処分」をしたものとするのは相当ではなく、更正処分の当否を判断する前提として独自に課税標準額を計算したにすぎないと解するのが相当である。

(二)  控訴会社は、法人税法第三一条の三の規定は、同族会社にのみ適用される独自の更正又は決定(課税処分)の規定であるから、右規定を適用することは新たな課税処分をすることにほかならない、と主張する。ところで課税標準および税額は、すでに客観的な存在としてきまつているのであるが、申告納税制度をとる税制においては、納税者自身が課税標準および税額等の基礎となる要件事実を確認し、これを一定の方式で租税債務の内容を具体的に確定してこれを税務官庁に通知し(納税申告)、法はこれに具体的な租税債務の確定という公法上の効果を与えているのである。そして右申告した課税標準又は税額が租税法の規定に従つていなかつたときその他税務官庁の調査したところと異るときは、税務署長は、課税標準又は税額を更正する(法人税法第二九条)。また納税者がなすべき申告を怠つた場合には税務署長は、その調査により、課税標準および税額を決定する(同法第三〇条)。これら税務署長が一定の方式に従つてなす更正、決定又は同法第三一条に規定する再更正は、税法上すでに客観的に存在する課税標準および税額を税務官庁が確認する処分であつて、これにより租税債務は具体的に確定する。しこうして同族会社の行為計算否認の規定は、同法第三一条の三が「政府は、第二十九条乃至第三十一条の規定により課税標準若しくは欠損金額又は法人税額の更正又は決定をなす場合において、(中略)、その行為又は計算にかかわらず、政府の認めるところにより、当該法人の課税標準若しくは欠損金額又は法人税額を計算することができる。」と規定するように、税務署長が前記更正、決定もしくは再更正をなすに当つて、同族会社についての課税標準および税額等を計算する規定にほかならず、右規定を適用して行為計算を否認して計算した標準および税額に基づき、前記更正、決定もしくは再更正の規定によりこれらの処分をなしてはじめて前記の如く課税標準および税額が確定し、租税債務が確定するのであつて、同族会社の行為計算の規定を適用して、課税標準および税額を計算した過程だけで租税債務が確定されたものとはいい難い。

なお、控訴会社は、右同族会社の行為計算の否認の規定を適用して課税標準および税額を計算すれば、直ちに右計算の結果である課税標準および税額が確定する、と主張するが、具体的租税債務の確定は、納税申告によるにしろ、税務官庁のなす更正又は決定によるにしろ、所定の方式による一定の行為又は処分によつてはじめてなされるものであることは、前説示のとおりであつて、又法人税法第三一条の三第一項は、前記の如く、更正又は決定をなす場合において同族会社の行為計算にかかわらず課税標準又は税額を計算することができる、と規定しているのであつて、この規定の体裁よりしても、法は、右計算に基づき同法第二九条ないし第三一条の更正又は決定処分を予定していることは明らかであるから、控訴会社の前記主張は、その独自の見解に基づくものであつて、当をえないものといわざるをえない。してみれば、同族会社の行為計算を否認してその課税標準又は税額を計算することをもつて新たな課税標準等を確定する処分ということはできない。

なお、前認定の控訴会社の審査請求に対する審査決定通知書記載の決定の理由中には、「以上によつて貴社の当年度の所得金額を計算すると九〇、八九二、二八〇円となるので、審査の請求は理由がありません。」と記載されているが、これは前述の審査の本質から見て被控訴人の所得金額を確定する趣旨ではなく、被控訴人の審査の結果によれば控訴会社の当該事業年度の所得金額は前記金額となるから、それを下廻る原処分は適法であり、従つて審査の請求は理由がない、との趣旨で、審査請求に対する判断の結論を述べているにすぎないことは、いうまでもない。

(三)  次に控訴会社は、同族会社の行為計算の否認の規定は、税務署長が更正又は決定をなす場合にのみ適用しうるのであつて、国税局長が審査の段階においてはじめて右規定を適用して審査決定をなすことはできない、と主張する。前記法人税法第三一条の三第一項の規定を文字どおり解すれば、同族会社の行為計算を否認して、その課税標準又は税額を計算しうるのは、税務署長が更正又は決定をなす場合に限られる如くである。しかしながら前説示の如く右行為計算の否認の規定は、課税標準および税額を計算するための規定にすぎず、右計算の結果課税標準および税額を得ても、右計算が直ちに新たな課税標準を確定する処分としての効果を有しえないのである。そして国税局長は審査庁として、審査請求について原処分の当否、即ちその確定した課税標準又は税額の当否を判断するに当つては、その審査の範囲は、原処分の理由はもとより審査請求の理由に拘束されることなく、全然別個の理由に基づいて判断することができるのであるから、当然同族会社の行為計算の否認の規定を適用して当該法人の課税標準又は税額を計算することにより原処分の確定した課税標準又は税額の当否を判断することができるものといわなければならない。このことは、税務署長がすでに右規定を適用して確定した課税標準等の当否を判断する場合と、税務署長が他の理由に基づいて確定した課税標準等の当否を判断する場合とで異るものではなく、又同様の規定の体裁をとつている推計課税に関する規定(同法第三一条の四第二項)が審査の段階においても適用しうるのと結論を異にするものではない。

(四)  控訴会社は、昭和四二年四月二一日最高裁判所第二小法廷判決を掲げて、法人税法第三五条による審査手続において審査庁は、審査の目的となつた処分理由を変更して、これを維持することができない、と主張するが、前説示のとおり前記審査手続においては審査庁は、原処分の理由に拘束されることなく、当該処分の当否を判断するに必要な範囲全般につき審査しうるのであるから、控訴会社の右主張は理由がない。控訴会社の掲げる前記判決は、法人税法第二五条第八項第三号による青色申告書提出承認の取消処分に対する審査手続において、審査庁が同項第一号に該当する事実のあることを理由として、右取消処分を相当として支持する決定をした事案に係るものであつて、判決は、右第一号による取消しと第三号による取消しとは、「それぞれ別個の取消処分を構成するものと解すべきであ」ると判示したうえ、「法三五条による審査の請求の手続において、請求に理由がないとして棄却決定がなされるのは、その審査の請求の目的となつた処分に違法不当と認むべき瑕疵がなく、その処分自体をそのまま維持するのを相当とする場合でなければならない。」「従つて、また法二五条八項三号による処分に対する審査の請求の手続において、いわゆる違法処分の転換の法理を適用し、新たに同項一号該当の事実の存在を認定し、これを生野税務署長のした右一号該当処分として維持できるものとすることは肯認しがた」い、と判示しているものであつて、本件とは事案を異にし、右判決をもつて前記主張の根拠とするのは相当ではない。

(五)  控訴会社は、同族会社の行為計算の規定を審査の段階で適用したため、これを不服の理由とする再調査、審査の二段階の救済手続を奪つた点で本件審査決定は違法である、と主張する。審査決定の理由に不服であつても、それを不服の理由として行政救済を求める途はないのであるが、再調査の申立、審査請求は、処分の当否についてなされるものであつて、個々の処分理由についてなされるものでなく、又審査庁の審査の範囲が原処分の理由あるいは不服申立の理由に拘束されるものでない以上、控訴会社の主張するような結果の生ずるのもやむをえないのであつて運用上の当否の問題として考慮すべきことと云えるけれどもこれをもつて法律上の根拠なくして救済手段を剥奪したものといいえないのは勿論、これを理由に審査決定を違法ということはできない。

そして本件審査決定によつて控訴会社に対して原処分と異る新たな課税標準および税額を確定する処分をしたものでないことは前説示のとおりであるから、これについて不利益変更の原則違反を論ずる余地もない。

四、控訴会社は、控訴会社が法人税法第七条の二第一項に規定する同族会社に該当しない、と主張するので、まずこの点について判断する。

控訴会社の本件取引当時の総株式数が四七〇万株であつたこと、その当時の控訴会社本店に備付ける株主名簿上の上位大株主五名およびその持株数が、日本鉱業株式会社九五万株、株式会社日立製作所八二万八、〇〇〇株、日本土地株式会社四七万六、〇〇〇株、日産火災海上株式会社三九万五、〇〇〇株、日産ビルデイング株式会社二五万株であつたこと、日本鉱業が当時日本土地から取得した四七万六、〇〇〇株、日産火災から取得した二四万五、〇〇〇株等を含むいまだ名義書換手続を経ていなかつた株式合計八六万六、〇〇〇株を保有していたことは、いずれも当事者間に争いがないところ、控訴会社は、右の名義書換手続未了株式八六万六、〇〇〇株は、基本通達にいう名義株ではなく、単に名義書換手続が遅延していたものにすぎないから、これを同族会社の判定について前記日本鉱業保有株式九五万株に加算することは誤りである、と主張する。

しかしながら、同族会社の判定について法人税法第七条の二第一項が当該会社の株主と保有株数を基準とした趣旨は、株主がその議決権の行使を通じて当該会社を支配することができる点に着目したことによると解されるから、同条項の株主とは、一般に記名株式については株主名簿に記載されたものをいうのであつて、たとえ記名株式を譲り受け実質的には株主であつても、名義書換手続を了していなければその株主権を会社に対抗できないから、かような者は、同条項の株主には含まれないというべきであるが、しかしいまだ株主名簿に記載されていない実質上の株主が株主名簿上の形式的な株主と特殊な間柄にある等の事情によつてその者の株主権を実質的に支配することができるため、右株主名簿上の形式的な株主名で実質的に議決権を行使することができるような場合には、その株式がいわゆる名義株であると、名義書換手続未了の株式であるとを問わず、右の実質上の株主も同条項の株主と解するを相当とし、基本通達の趣旨とするところもそこにあると解せられる。

本件についてみるに、前記当事者間に争いのない事実、いずれも原審証人立花義男、同杉山健太郎の各証言により成立が認められる乙第八号証の一ないし四、同第九号証の一、二および右各証言、弁論の全趣旨により成立が認められる同第七号証によれば、

(1)  日本土地は、日本鉱業から昭和三〇年四月二一日に一億円、同月三〇日に一億八、五〇〇万円を借り受けたが、即時その使用する目的がなかつたとして、控訴会社の申出により借入と同一条件でそれぞれ即日控訴会社に貸付け、昭和三一年四月二三日に一億八、五〇〇万円、同月二四日に一億円の返済を受け、直ちにこれを日本鉱業に返済した。

(2)  日本土地は、右貸付金一億円については、控訴会社の依頼により、貸付金四、〇〇〇万円、立替金およびその他引当金一、五〇〇万円ならびに控訴会社の増資払込金四、五〇〇万円(控訴会社の第一五新株四五万株)の三口に分割して記帳整理をし、又右一億円の返済を受けたに伴い右増資新株を控訴会社に譲渡した旨の記帳をしたが、右四、五〇〇万円も、控訴会社に対する貸付金であつて、日本土地は、株金を払込んで控訴会社の株主となつたわけではなかつた。従つて日本土地は、右四、五〇〇万円についても控訴会社から利子二四〇万五、〇〇〇円の支払いを受けており(同株式は無配当)、又昭和三八年五月一六日現在において(当時においても右株式につき名義書換手続未了であることは控訴会社の自認するところである。)控訴会社の株主総会招集の通知を受けておらず、従つて株主権を行使していない。

(3)  他方日本鉱業は、昭和三一年三月三一日に控訴会社より同会社の株式八六万六、〇〇〇株(前記四五万株のほか、日本土地が控訴会社に昭和三〇年四月一九日譲渡した二万六、〇〇〇株、日産火災が昭和三一年三月三一日に譲渡した二四万五、〇〇〇株を含む。)を譲り受け、同年末現在の控訴会社の株式の保有数は、一八一万六、〇〇〇株であると記帳している。

(4)  日産火災は、控訴会社の株式二四万五、〇〇〇株を昭和三〇年二月七日に買入れ、昭和三一年三月三一日に売却し、以後右株式については株主権を行使していない。

以上の事実が認められ、右認定を左右しうる証拠はない。

次にいわゆる日産コンツエルンがすでに解体し、本件取引当時存在しなかつたことについては当事者間に争いがないが、弁論の全趣旨によれば、日本鉱業、日産火災、日本土地等旧日産コンツエルン傘下の各会社がいわゆる日産グループを結成し、株式の持合い、資金の融資等を通じて密接な関係を持ち、前記各会社がその中心的存在であつたことが認められる。

以上認定事実によれば、日本土地名義の控訴会社の株式四五万株は、同会社の名義とはなつているものの、同会社は株金払込みをしたのではなく、控訴会社に資金を貸付けたにすぎず、しかも右貸付けも実質的には日本鉱業が控訴会社に貸付けたにひとしく、日本土地は通り抜け的存在であること、日本鉱業は、控訴会社より日本土地を通して右貸付金の返済を受ける以前にすでに右四五万株を譲受けた旨の記帳をしている点よりして、前記貸付金の一部がそのまま日本鉱業の前記四五万株の株金払込みに充当されたことも充分考えられるところであり、そうだとすれば、日本鉱業はもともと右株式の実質上の株主であり、日本土地は単に名義を貸しているにすぎないから、右株式は、まさに基本通達にいう名義株に該当する。さらに日本土地は、当初から(ただし前記二万六、〇〇〇株については譲渡以後)株主総会招集の通知を受けず、従つて株主権を行使していないことは充分推認でき、又日産火災もまた株式譲渡以後は株主権を行使していないのであるから、前記認定の各会社の特殊な間柄よりして当然実質的株主である日本鉱業(同会社が前記株式の対価を支払いずみであることは控訴会社の自認するところである。)がたとえ名義書換手続未了であつても、その株主権を行使していたものと推認するのが相当であり、他に右推認を左右しうる証拠はない。従つて本件取引当時、日本鉱業の持株数は少くとも九五万株に七二万一、〇〇〇株(四五万株、二万六、〇〇〇株、二四万五、〇〇〇株の合計)を加えた一六七万一、〇〇〇株となり、日立製作所の持株数は八二万八、〇〇〇株、日産ビルの持株数は二五万株であるから、以上上位三社の持株数の合計は、二七四万九、〇〇〇株となり、控訴会社の総株式数四七〇万株に対し五〇%を超えることが明らかであるので、控訴会社は、法人税法第七条の二第一項第一号の同族会社であつたといわなければならない。従つて控訴会社のこの点に関する主張は理由がない。

五  控訴会社と控訴人藤田との間に昭和三二年一月一一日本件取引がなされたこと、被控訴人が本件取引における帝石株四五〇万の一株当りの実質取引価格を一五七円〇五銭と認定したことおよびその認定した根拠が控訴会社主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。控訴会社は、右被控訴人の認定の根拠(原判決一七枚目表六行目から同裏八行目まで)のうち、(1)(F)日産炭化に対する債権九、五〇〇万株は、複利現価で評価し、七、二二一万一、〇〇〇円と評価するのが正当であり、又(2)藤田企業株式会社振出の手形による決済として一億〇、五〇〇万円は、実質的には歩油権による代物弁済であつたのであるから、歩油権の評価額である三、三〇〇万円と評価するのが正当であり、従つて帝石株四五〇万株の一株当りの実質取引価格は一三六円である、と主張する。即ち、右実質取引価格に関する主張の相違は、専ら前記被控訴人の認定の根拠中前記二項目についての評価の相違によるものであるから(控訴会社はその余の項目についての被控訴人の認定額は争わない。)、右二項目の評価額について判断する。

(一)  「日産炭化に対する債権」の評価について

当裁判所も右日産炭化に対する債権の評価額は九、五〇〇万円をもつて相当であると判断するものであつて、その理由は、原判決理由の説示(原判決一一三枚目裏六行目から同一一八枚目表一行目まで)と同一であるから、ここにこれを引用する。

(二)  「藤田企業株式会社振出の手形による決済として」の評価について

前顕甲第一七号証、乙第一八号証(一部)いずれも成立に争いのない甲第八号証、同第一三、一四号証、同第二一号証、乙第一号証、同第一一号証、同第一三号証、原審証人立花義男の証言により成立が認められる乙第一六号証、いずれも弁論の全趣旨により成立が認められる甲第六、七号証、同第一〇号証、乙第三号証原審証人中尾謹次郎の証言および弁論の全趣旨を総合すると、

(1) 控訴会社は、昭和三一年九月当時日満鉱業株式会社に対し一億円の貸金債権を有していた(右事実は、当事者間に争いがない。)。そして右債権の利子見積額は八〇〇万円であつた(ただし、後に返済期日が繰り上げられたので、五〇〇万円となつた。)。当時本件取引がすでに予定されていたので、控訴会社はその代金に充当すべく、その返済を求めたが、日満鉱業には資力はなく、担保価値のある資産は、本件歩油権のみであつた。

(2) 控訴会社、日満鉱業、控訴人藤田は協議のうえ、昭和三一年九月二五日に、(i)本件歩油権の価格を三、三〇〇万円と評価し、日満鉱業は、控訴会社に対し、前記借入金の代物弁済として本件歩油権を譲渡し、控訴会社は、右歩油権を本件取引の代金の一部の代物弁済として控訴人藤田に譲渡する。(ii)ただし右の方法により歩油権を正規の手続を経て譲渡するときは、その名義書換等の手続に日時を要するので、次の方法によることにする。(ア)日満鉱業は控訴人藤田に歩油権を譲渡することとし、即日譲渡契約書を作成する。(イ)控訴人藤田は、日満鉱業に、控訴会社と控訴人藤田間に将来締結すべき帝石株譲渡の受渡期日を最終期限とし、日満鉱業にあてた手形を自己もしくはその指定した者が振出し、交付する。(ウ)譲渡価格は一億〇、八〇〇万円とする。(エ)日満鉱業は、右受取手形を前記借入金決済のため控訴会社に裏書譲渡し、控訴会社は、右手形を本件取引代金の一部に充当する。旨を決定した。

(3) 控訴会社は、本件歩油権の価格を三、三〇〇万円と評価していたのであるが、日満鉱業に対する前記貸付金元利合計一億〇、八〇〇万円(返済期繰上げのため一億〇、五〇〇万円となる。)と右評価額との差額を貸倒金として切り捨て欠損処理することは税務上問題があり(控訴会社は、貸金の一部については貸倒れは認められないと考えていた。)、又自社の株主に対する考慮もあり、困難が多いので、すべて額面どおりの額による代物弁済の便法をとることにしその手段として本件歩油権について前記手形が使用された。

(4) かくして右約定に基づき、藤田企業株式会社(同会社は本件歩油権取引に関し、控訴人藤田に会社名義を貸与することを承諾した。)と日満鉱業との間で譲渡契約書を作成し、控訴人藤田は、藤田企業株式会社振出の額面<1>五、〇〇〇万円、<2>四、〇〇〇万円、<3>一、八〇〇万円の三通の約束手形(いずれも振出日昭和三一年一〇月二五日、満期日昭和三二年一月二〇日)を日満鉱業に交付した。なお、右<3>の手形は満期になつて額面<イ>一、〇〇〇万円、<ロ>五〇〇万円、<ハ>三〇〇万円の三通(いずれも満期日昭和三二年六月二九日)に分割された。これらの手形はいずれも控訴会社に手渡され、右<1>、<2>、<イ>の各手形は、控訴会社の日満鉱業に対する貸付金元本に、<ロ>の手形は同利息の支払いに充当したこととして、さらに本件取引の代金の一部支払いのため控訴人藤田に手渡された。<ハ>の手形は、控訴会社より日満鉱業に、同会社からさらに控訴人藤田に返還された。

(5) 本件歩油権は、日満鉱業が昭和三〇年一二月三一日に中尾謹次郎から三〇〇万円で取得したものであり、昭和三二年一月当時の評価額は三、二五二万七、〇〇〇円であつた。

(6) 本件取引は、鮎川義介が昭和三一年一月頃日本鉱業から帝石株一、〇〇〇万株の買集方の委託を受けたことに端を発したものであつて、本件取引による株の受渡を昭和三二年一月にしたのは、帝国石油の社員に与える影響等を考慮して引き延ばしたものであつて、前記歩油権の取引の頃は、すでに控訴会社と控訴人藤田との間において売買交渉が行われ、契約締結も予定されていた。

以上の事実が認められ乙第一二号証中本件歩油権の価格を一億〇、五〇〇万円と評価して取引した旨の記載は、原審証人中尾謹次郎同片桐隆二の、右乙第一二号証は、税務当局に対する説明資料として事実に基づかずして作成したものである旨の証言に徴し措信し難く、乙第一八号証中右認定に反する記載は、前記各証拠と対比して措信できない。又乙第一四号証中控訴人藤田が本件取引代金の一部として現金三〇〇万円を昭和三二年六月二七日に受領し、右金員を同月二九日に日本鉱業に前記<ハ>の手形決済のため支払つた旨の記載は、控訴人藤田が右期日に本件取引代金の一部として三〇〇万円を受領したことは、乙第一九号証の記載に徴して認められるが、右金員を日満鉱業に支払つた事実は、他にこれを認めるに足る的確な証拠はなく、そのまま措信することはできず、他に前記認定を覆すに足る証拠はない。

以上認定事実によれば、控訴会社、日満鉱業、控訴人藤田の間において、本件歩油権の価格を三、三〇〇万円と評価し、控訴会社は、日満鉱業に対する貸付金元利合計一億〇、五〇〇万円のうち右評価額に見合う額につき本件歩油権を代物弁済として譲り受け、その余の債権を放棄することとし、控訴人藤田に対し本件取引代金中右評価額に見合う部分の代物弁済として本件歩油権を譲渡したこと、しかしながら、控訴会社が日満鉱業に対する債権の一部を放棄して欠損処理をすることは税務会計上も困難であると考えられたので、便宜形式上は本件歩油権の価格を控訴会社の債権の元利合計一億〇、五〇〇万円と同額として前記順次代物弁済による処理をすることとし、さらに歩油権の譲渡による名義書換手続を省くため、日満鉱業が直接控訴人藤田に譲渡したことにして、会計処理の必要から前記手形を右三者間を一巡させることにしたものと認めることができる。従つて本件取引代金の一部の代物弁済として控訴会社から控訴人藤田に本件歩油権が前記評価額において譲渡されたものであつて、前記各手形(額面合計一億〇、五〇〇万円)が右代金支払のため譲渡されたものではないとみるのが相当である。もつとも控訴会社と控訴人藤田間の本件取引に関する契約書(第三四号事件甲第一七号証)には、譲渡代金の内訳として一億〇、五〇〇万円藤田企業株式会社に対する手形債権、従つて譲渡代金総額七億七、五〇〇万円と記載されているけれども、これらはいずれも前記形式上の処理に対応するよう作成されたものとみるのが相当であるから、これらの記載は前記認定を妨げる資料となすことはできない。

被控訴人は、日満鉱業と控訴人藤田が昭和三一年九月二五日に本件歩油権の売買契約をなし、前記約束手形を交付し、日満鉱業は右手形を控訴会社に対する一億円の債務弁済のため控訴会社に交付し、控訴会社は、本件取引代金の一部支払いのため前記手形のうち一億〇、五〇〇万円を控訴人藤田に交付したのであるから、右手形債権の評価を如何にするかという問題の生ずる余地はなく、右手形額面全額が本件取引代金の一部支払いにあてられたものである、と主張するが、その当をえないことは、前叙のとおりである。さらに前記認定のとおり本件歩油権は、日満鉱業が昭和三〇年一二月三一日に三〇〇万円で取得したものであるが、僅か九ケ月余経つた後に一億〇、五〇〇万円に騰貴した特別の事情(しかも右金額が控訴会社の日満鉱業に対する債権の元利合計に一致している。)が認められない本件においては、控訴人藤田と日満鉱業間において、日満鉱業の控訴会社に対する債務の弁済と関連なく本件歩油権の取引がなされたものとは考えられないから、前記主張の失当であることは明らかである。

なお、被控訴人は、日満鉱業が控訴人藤田から受領した前記手形の一部(前記<1>の手形)を一時日本中小企業政治連盟よりの借入金の担保に流用し、昭和三二年一月二二日にようやく控訴会社に交付しているから、日満鉱業の債務の弁済と同会社と控訴会社との本件歩油権の取引とは相互に無関係のものである、と主張するが、かかる事実があつたとしても、これをもつて直ちに右債務の弁済と本件歩油権の取引が相互無関係な別個の取引であるということはできない。さらに被控訴人は、昭和三一年九月二五日現在控訴会社の日満鉱業に対する貸付金は、九、〇〇〇万円であつたから、控訴会社が一億円の代物弁済として本件歩油権の譲渡を受けることはありえず、従つて控訴会社が一たん本件歩油権を取得したことはありえないとも主張する。右期日における控訴会社の日満鉱業に対する貸付金の元本の合計額が被控訴人の主張のとおりであることは、前顕乙第一六号証により認めることができるが、控訴会社、日満鉱業、控訴人藤田間の取引の実態は前記認定のとおりであつて、被控訴人主張の右事実は、前記認定を妨げる資料となすに足らないというべきである。

(三)  してみれば、控訴会社と控訴人藤田間の本件取引の実質取引価格は、契約書(甲第一七号証)記載の名目代金にもかかわらず、(1)(A)現金四、六〇〇万円、(B)借入金肩替り四億〇、三五〇万円、(C)債権相叙二、五〇六万六、〇〇〇円、(D)日埃交易株式二二〇万三、九二八円、(E)日産炭化株式二、九九六万七、〇五〇円、(F)日産炭化に対する債権九、五〇〇万円、(2)藤田企業振出手形による決済として(実質は本件歩油権による代物弁済)三、三〇〇万円、以上合計六億三、四七二万六、四五〇円であり従つて帝石株の一株当り一四一円〇五銭となる。

六、控訴会社が本件取引により控訴人藤田より買受けた前記四五〇万株を含む帝石株一、〇〇〇万株を昭和三二年一月一四日に代金一一億五、〇〇〇万円で日本鉱業に売り渡したこと、被控訴人が前記帝石株四五〇万株についての一株当りの売渡価格を一一五円と認定したことは、当事者間に争いがない。控訴会社は、右売り渡した帝石株一、〇〇〇万株のうち一八八万一、〇〇〇株は、昭和二九年八月に一株当り一三五円で日本鉱業から譲り受けたものであるが、買戻の特約があつたので、これを右買受価格で売り戻し、またこれに対する増資割当分一八八万一、〇〇〇株も一株当り二五円の取得価格で譲渡したから、右合計三七六万二、〇〇〇株の平均売渡価格は一株当り八〇円となり、従つて右一、〇〇〇万株全体の単純平均売渡価格は、一株当り一一五円であるが、右三七六万二、〇〇〇株を除くその余の六二三万八、〇〇〇株(控訴会社が控訴人藤田から買受けた四五〇万株を含む)については一株当りの右価格は、市場価格九一円の五割増に当る一三六円である、と主張するので、この点について判断する。

前顕甲第一〇号証、乙第三号証(一部)同第一八号証、いずれも成立に争いのない甲第九号証、同第一一号証、乙第三一号証、同第三六号証、原本の存在および成立に争いのない同第三二、三三号証、原審証人岡部楠男、同原徹(一部)の各証言および弁論の全趣旨によれば、

(1)  昭和二九年八月頃、帝国石油は、労使間の紛争および役員間のあつれきからその経営にゆきづまりを来たしたので、これを解決し、その難局を打開するため、事業経営について豊富な経験と力量識見を有していた鮎川義介が出馬し、その経営に参加することとなり、そのためその大株主である日本鉱業等からその保有にかかる帝石株を譲り受けた。即ち、鮎川義介は、日本鉱業から帝石株一八八万一、〇〇〇株を譲受けたが、右譲渡に際し、日本鉱業は、前記帝国石油の整理がすめば原価で売り戻されることを希望し、鮎川義介も右株式の取得により利益をあげることを考えておらず、専ら帝国石油の整理のためであつたので、日本鉱業の代表者岡部楠男との間に右買戻についての密約を結んだ。そして控訴会社は、鮎川義介に協力することになり、同株式を同人より肩代りした。なお右密約については、鮎川義介の帝国石油の紛争整理に当る立場を考え、他の役員にも洩されなかつた。

(2)  控訴会社は、その他菊池寛実らから帝石株合計一一一万九、〇〇〇株を譲り受け、前記日本鉱業より譲り受けた一八八万一、〇〇〇株、菊池寛実らより譲り受けたうち六一万九、〇〇〇株につき昭和三〇年三月一日同株数の増資新株割当があつたので、控訴会社の昭和三一年一月当時の帝石株の保有株数は五五〇万株であつた。そして日本鉱業は、前記買戻の密約があるので、鮎川義介に対する前記株式の売却代金も貸付金として処理し、右金員のほか、株式会社が菊池寛実らからの譲受代金、増資割当株の払込金等合計四億七、五〇〇万円を融資し、その担保としてこれら帝石株全部の提供を受け、これらの株式の配当金をもつて貸付金の利息に充当した。

(3)  その後帝国石油の問題もようやく落着いたところ、昭和三〇年一二月頃鮎川義介より日本鉱業の代表者に対し、一、二の化学工業会社が控訴会社保有の帝石株を価格の如何にかかわらず買受けを希望しているが、同社が譲受けを希望するならば、これを優先的に考慮してもよい旨の申入れがあつた。日本鉱業は、かねてから帝国石油に対し深い関心を持ち、その経営支配を希望していたので、昭和三一年一月に帝石株一、〇〇〇万株(総株数の二五%にあたる。)を買受けることを決定した。

(4)  そこで控訴会社は、前記自社保有の帝石株五五〇万株のほか、控訴人藤田の保有する四五〇万株を買受けて日本鉱業に譲渡するとともに、日本鉱業との間における過去数年にわたる貸借勘定を整理することとした。代金については、日本鉱業より控訴会社に対し、前記密約に即した原価買戻を含め一、〇〇〇万株を一括した単価の提示を求め、これに対し控訴会社は、日本鉱業より取得した株式(増資新株を含む。)については取得原価、その余の株式については市場価格の五割増の計算で平均単価一一五円となるので、右価格を代金として回答し、両者協議の末、昭和三一年五、六月頃右のとおり代金額を決定した。即ち、日本鉱業よりの取得した株式一八八万一、〇〇〇株、一株当り一三五円合計二億五、三九三万五、〇〇〇円、右に対する増資割当株一八八万一、〇〇〇株一株当り二五円合計四、七〇二万五、〇〇〇円、菊池寛実らよりの取得した株式(増資割当株を含む。)一株当り一三六円(時価九一円の一五割)合計二億三、六一〇万二、五五〇円、控訴人藤田より取得した株式四五〇万株一株当り一三六円合計六億一、一九三万六、四五〇円、以上総計帝石株一、〇〇〇万株(平均一株当り一一五円)一一億五、〇〇〇万円となる。

(5)  そして日本鉱業は、控訴会社に融資した前記貸付金四億七、五〇〇万円は当然右譲受代金に充当された。

以上の事実が認められ、乙第三号証中右認定に反する記載は前記各証拠と対比して措信し難く、同第三六号証および原審証人原徹の証言中前記認定にそわない記載および供述は前記認定の妨げとなすに足らない。

以上認定事実によれば、控訴会社が日本鉱業に譲渡した帝石株一、〇〇〇万株については、さきに日本鉱業から取得した分やそれに対する増資割当分およびそれ以外の分につき控訴会社主張のような計算や考慮がなされたうえで一、〇〇〇万株全体の譲渡価格が決定されたものであり、そのうち控訴人藤田から取得した四五〇万株についてはその一株当りの譲渡価格は一三六円であるといわなければならない。

被控訴人は、鮎川義介が日本鉱業から帝石株を買受けるに際して控訴会社主張の如き買戻の密約をなした事実はなく、従つて帝石株一、〇〇〇万株については一括して一株当り一一五円で控訴会社から日本鉱業に譲渡されたものである、と主張し、その理由として、まず価額が将来どのように変動するかについて全く予測のできない株式を原価による買戻条件付で売買することは、経済人の取引としては常識上考えられず、せいぜい市場価格を基準にした値決めによる買戻しの特約したものというべきである、と主張するが、前認定のとおり、日本鉱業は、鮎川義介又は控訴会社から売渡した帝石株一八八万一、〇〇〇株の代金を受け取ることなく、これを貸付金として処理し、さらに増資割当株の払込金も融資して、これらの株式をその担保として提供を受け、配当金を受け取つて右貸付金の利息に充当しているのであつて、いわば広義の名義株にも類するものといつて差支えなく、ただ鮎川義介の帝国石油の紛争整理に当る立場上一応売買の形式をとつたものとも考えられないのではないから、前記認定の如き買戻の特約をしたからといつて直ちに経済人の取引行為として考えられないとはいえないものというべきである。

次に被控訴人は、昭和二九年七月一六日開催の控訴会社取締役議事録に、帝石株の株価は近い将来肩代り価格あるいはそれ以上に戻ると思われる旨の記載があり、これによれば、控訴会社は帝石株取得により将来有利な利殖ができるとしていたのであつて、原価売戻は考えていなかつたというべきであり、又同年一二月二七日開催の同取締役会議事録にも、帝石株相場が予期の如き騰貴を見せないので、次期決算には一億八、〇〇〇万円の評価損の計上は必至となつたので、損失をできるだけ減額する意味において鮎川義介の申出により、その厚志に応え日産ビルデイング株式会社株式四五万株全株を同人に売却し、その売却益により前記評価損を三、三〇〇万円余にしたい旨の記載があり、控訴会社は、同月三一日現有の帝石株五〇〇万株(日本鉱業より取得した一八八万一、〇〇〇株を含む。)につき評価損を計上したが、買戻の密約があれば、右日本鉱業より取得分については評価損を計上する必要はない筈である、と主張する。控訴会社の各取締役会議事録に被控訴人主張の如き記載のあることは、前顕乙第三三、三四号証により認められ、又控訴会社が、被控訴人主張の時期に主張の如き評価損を計上したとしても、前認定の如く、前記買戻の密約は、鮎川義介と日本鉱業代表者岡部楠男の間においてなされ、鮎川義介が帝国石油の紛争整理に当る立場を考え、他の役員にも洩らされなかつたのであるから、控訴会社の取締役会において上記の如き発言がなされ、あるいは他の帝石株とともに日本鉱業よりの取得分についても評価損計上の処理がなされても、あながち不合理ともいいきれず、これをもつて買戻の密約の存在を否定する理由ともなし難い。又前記帝石株五〇〇万株のうち六割以上は、控訴会社が鮎川義介に協力のため買集めたものであつて、その評価損減額のため協力を申し出たからといつて、これまた前記密約否定の理由となしえないことはいうまでもない。

被控訴人は、日本鉱業と鮎川義介間、同人と控訴会社間の帝石株の各売買契約書に買戻条項の定めが記載されていない、と主張するが、前記の如く鮎川義介と日本鉱業代表者間の密約である以上、契約書に記載されないのがむしろ当然というべく、又日本鉱業から被控訴人あてに提出された文書(乙第三五号証)に、日本鉱業に買戻の意思なく、又そのような条件もつけなかつた旨の記載があるが、前記両名間の密約である以上それを知らない日本鉱業の事務担当者がかかる文書を提出するのも無理からぬところであり、これをもつて前記密約の存在を否定することはできないものというべきである。

してみれば、被控訴人の買戻の密約の存在しないことを前提として、帝石株一、〇〇〇万株を一括して譲渡価格を決定したとの前記主張は理由がないものといわなければならない。

七、法人税法第三一条の三第一項の同族会社の行為計算否認の規定は、同族会社は首脳者又は少数の株主若しくは社員が多数の議決権を有する会社であり、比較的利害を同一にしているこれらの者の意思により会社の行為又は計算を自由にすることが容易であり、会社と個人を通じて租税負担を不当に軽減することも可能であることから、租税負担の公平を期するために設けられた制度であるから、同条項にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められる」かどうかは、専ら経済的、実質的見地において、当該行為計算が経済人の行為として不合理、不自然のものと認められるかどうかを基準として、これを判定すべきものであり、同族会社であるからといつて右基準を超えて広くその行為計算の否認は許されないものと解すべきである。

本件についてみるに、同族会社である控訴会社は、控訴人藤田から帝石株四五〇万株を買受けたのであり、その一株当りの実質取引価格は一四一円〇五銭であり、右価格は当時の市場価格九一円の一五・五割に該当する。いずれも成立に争いのない甲第一二号証、同第二二号証の一ないし三(原本の存在についても争いがない。)、原審証人岡部楠男の証言および弁論の全趣旨によれば、大量の上場株を市場で買集めようとすれば、相場は忽ち暴騰して短期間に所期の目的を達することができない場合が往々にしてあるので、市場外で直接取引をする場合があるが、この場合市場相場の少くとも五割増の価額でないと商談がまとまらない実情であること、日本鉱業は、昭和二九年に菊池寛実から帝石株を一株当り一六〇円で買つたことがあるが、当時の市場価格は九八円であつたから、買受価格は、その一六・三割になること、そのほか、控訴会社が昭和二九年八月一〇日菊池寛実から帝石株一九〇万株を一株当り一三五円(市場価格八九円の一五・一割に当る。)で買受けたことがあること、鮎川義介が日本鉱業から買受けた帝石株一八八万一、〇〇〇株当りの買受価格一二七円は、市場価格九三円の一三・六割に当ることが認められ、他に右認定を左右しうる証拠はない。してみれば経営支配を目的とした上場株の大量取引においては、その取引価格が当時の市場価格の一五・五割に当つても、これをもつて直ちに不当に高額な価格ということはできないというべきである。

もつとも控訴会社は、控訴人藤田から一株当り一四一円〇五銭で譲り受けた帝石株四五〇万株を日本鉱業に一株当り一三六円で譲渡し、一株につき五円〇五銭の損失を受けた結果となつたのであるが、前記各認定事実および弁論の全趣旨によれば、控訴会社は、控訴人藤田に支払うべき取引代金のうち、前記「日産炭化に対する債権」については当然複利現価しその名目債権額が減額さるべきものと考えていたところ、それが認められなかつたため計算上かかる損失を受けた結果となつたのであり、しかも日本鉱業に対してはもはや取引価格増額の申出ができなかつたこと又鮎川義介が日本鉱業より買集めた委託された帝石株一、〇〇〇万株を市場外で集めるためには、少々の無理をしても控訴人藤田の保有していた四五〇万株を買受ける必要があり、他方控訴会社としては日本鉱業との間に数年にわたる貸借勘定その他の関係が錯綜しておりこれの整理清算の要求を受け、せん延を許されなかつたこと、さらに当時一、二の化学工業会社が一株当り一五〇円で買受方を希望しており、控訴人藤田も市場価格に五〇円増しの一四一円以上でなければ一括譲渡には難色を示していた(前顕乙第三六号証)事情を併せ考えると、控訴会社が控訴人藤田から帝石株四五〇万株を買受け、一株につき五円〇五銭の損失を受けたことをもつて直ちに経済人として常識上考えられない不合理、不自然な取引ということはできない。

してみれば、控訴会社が控訴人藤田から帝石株四五〇株を一株当り一四一円〇五銭で譲受けたことをも法人税法第三一条の三第一項にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となる」ということはできないものといわねばならない。

なお、成立に争いのない乙第三九号証の一、原審証人原徹の証言前記各認定事実および弁論の全趣旨によれば、鮎川義介は、昭和三〇年一二月頃から日本鉱業に対し帝石株一、〇〇〇万株買受の交渉を始め、昭和三一年一月には日本鉱業は右買受けを決定し、鮎川義介に右株式の委託をしているのであるが、控訴人藤田は、同年二月に鮎川義介を経て石油資源開発株式会社の放出に係る帝石株三一〇万株を一株当り八五円で、又同年四月に帝石同友会外一名から帝石株一四〇万株(以上の合計四五〇万株が本件取引の目的となつた帝石株である。)を一株当り一〇〇円で譲受けたこと、これら四五〇万株はいずれも前記石油資源の放出六九〇万株の一部であり、前記三一〇万株は日本鉱業と帝石同友会の引受残であつて、一応鮎川義介名義としたものであることが認められ、これらの事実によると、日本鉱業としては何故にこれら放出の四五〇万株を低廉な価格で引受けることなく、改めて控訴人藤田から買受けることにしたのか、これらの点につき疑問がないではないが、そうかといつてこれらの事実は、前記認定を覆えす資料となすに足らないものというべきである。

八、被控訴人は、さらに、本件取引につき同族会社の行為計算否認の規定が適用できないとしても、本件取引の実態、本件取引時における控訴会社と控訴人藤田との特殊関係および帝石株の移動状況からして右両者間に通常取引では到底行われる筈がないと思われる程の高価買入れという異常な取引が行われたのであるから、その異常高価相当分は、控訴会社が無償で控訴人藤田に贈与したものと認定するのが相当であり、又控訴会社の受けた多額の譲渡は控訴人藤田に対する贈与相当額と表裏一体の関係をもつから、このような贈与相当額について寄附金の限度計算を行ない、その限度超過額を算出してこれを控訴会社の所得金額に加算することは正当である、と主張するが、右主張の当をえないことは、すでに説示したところより明らかであるというべきである。

九、よつて控訴会社の審査請求に対する被控訴人の審査決定は、違法であつて、取消しを免れない。

第二、控訴人藤田の請求について

一、控訴人藤田の請求原因第一、二項の事実、玉川税務署長が帝石株四五〇万株につき控訴会社が控訴人藤田から譲り受けた価格と、これを日本鉱業に譲り渡した価格との差額一億八、九〇〇万円について、控訴人藤田は控訴会社から贈与を受けたものと認めて同人に対し一時所得(九、四四二万五、〇〇〇円)として課税したことおよび被控訴人が控訴人藤田が同族会社である控訴会社の株主であり、かつその取締役会長である鮎川義介と特殊関係にあつたこと、控訴人藤田が控訴会社に譲渡した帝石株の取引価格は譲渡時における時価に比べて不当に高価であると認められたことから、本件取引は、所得税法(昭和二三年法律第二七号、以下同じ。)第六七条第一項の規定に該当するので、右差額一億八、九〇〇万円を控訴人藤田において控訴会社から贈与を受けたものと認め、これを一時所得として控訴人藤田に対してなした原処分には誤りがないので、審査の請求には理由がないとしてこれを棄却したことは当事者間に争いがない。

二、控訴人藤田は、本件取引における実質譲渡価格は一株当り一三六円であり、右価格は、経営支配を目的とする大量取引の価格として、又取引当時の帝石株の市場相場の趨勢からしても不当に高い価格ではない、と主張する。控訴会社が本件取引当時法人税法第七条の二第一項に規定する同族会社に該当することは前認定のとおりであり、控訴人藤田が控訴会社の株主であり、かつ取締役会長鮎川義介の実弟であることは弁論の全趣旨により認められる。しかしながら本件取引は、その実質取引価格が一株当り一四一円〇五銭であつて、経済人の行為として不合理、不自然のものと認められず、従つて同族会社の行為計算否認の規定を適用して否認すべきものに当らないことは、すでに認定したとおりであるから、当然控訴人の所得税の課税標準および税額の計算に当つても所得税法第六七条第一項の規定により本件取引に関する控訴会社の行為計算を否認することはできないものといわなければならない。又前認定の事実関係において控訴人藤田が本件取引により控訴会社から実質取引価格と市場価格との差額相当額の贈与を受けたものと認めることもできない。

三、してみれば、控訴人藤田の審査請求に対する被控訴人の審査決定は、控訴人藤田の主張のその余について判断するまでもなく違法であり、取消しを免れない。

第三結論

以上説示のとおり控訴人らの審査請求に対する被控訴人の審査決定は、いずれも違法であり、従つてその取消しを求める控訴人らの本訴請求は、いずれも相当であつて認容すべきである。

よつて右と判断を異にする原判決は不当であつて、本件控訴はいずれも理由があるから、民事訴訟法第三八四条第一項第九五条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石田哲一 小林定人 関口文吉)

別紙

準備書面(四)

控訴人株式会社中小企業助成会(以下「控訴人」という)の昭和四六年二年二二日付の第六準備書面九丁に、原判決で、「控訴人が特別な関係にある根拠として、日本土地、日産火災、日本鉱業は、いわゆる日産コンツエルンの傘下にある会社であることが認められる」と判示しているのは誤認であると主張される。しかし、原判決が、「いわゆる日産コンツエルン」という表現をとつているのは日本土地株式会社(以下「日本土地」という。)日本鉱業株式会社(以下「日本鉱業」という。)、および日産火災海上保険株式会社(以下「日産火災」という。)の各社が次のような特別な関係にあることを説明するためのものである。

第一、すなわち、被控訴人は、控訴人が当時の法人税法第七条の二(同族会社の定義)に規定するいわゆる同族会社に該当するものと判定し、その判定の基礎とした株主のうち、日本鉱業がかねて保有していた控訴人の株式九五万株に、昭和三一年三月三一日に日本土地から取得した控訴人の株式四五万株、日産火災から取得した控訴人の株式二四万五千株、貝島太郎から取得した控訴人の株式一〇万株、その他七万一千株(その内訳は旭ビル株式会社から取得していた三万株、日本油脂株式会社から取得していた一万五千株、別に日本土地から取得していた二万六千株からなつている。)計八六万六千株を加算した一八一万六千株をもつて計算根基としたものである。

控訴人は、右各株式は単に名義書換手続は遅延していたものであつて、基本通達にいういわゆる名義株ではなく、これを同族会社の判定について加算することは許されないと主張される。

そこで、被控訴人は、日本鉱業の持株として加算した株式のうち、日本土地から取得した四五万株、日産火災から取得した二四万五千株について、日本鉱業が右株式を取得して後七年余の長年月を経てなお名義書換をしなかつた理由並びに日本鉱業が右株式を取得するに至つた経過等を調査したところ、控訴人、日本鉱業、日本土地および日産火災が、いずれも「いわゆる日産コンツエルン」の主宰者であつた鮎川義介(以下「鮎川」という。)につながる特別の間柄にある会社であつて、それ故に日本鉱業が日本土地、日産火災から取得した控訴人の株式につき七年余の間名義書換が未了であつても容易に右二社の白紙委任状を取付けることが可能であり、実質的に控訴人に対しその議決権を行使し得る立場にあつて、右のごとき特別な事情にある会社がたとえ名義書換が未了であつても、実質的な株主である以上、右株式は同族会社の判定上これを加算すべきであり、原審もそれを支持されているのである。

勿論日産コンツエルンは、控訴人の主張をまつまでもなく、戦後の財閥解体措置により解体され、いわゆる持株会社も独占禁止法により禁止されているところであるが、戦後の経済復興とともに、戦前の日本産業株式会社(以下「日産」という。)を中心にまとまつていた「日産コンツエルン」は姿をかえ装いを新たに、「日産グループ」という名称で結集され、日本鉱業、日産火災、日立製作所、日産自動車、日立造船、日本水産等有力企業の下に数多くの関連関係会社を擁して日本産業界の一翼を担つていることは明らかなところであり、右会社の底流には「いわゆる日産コンツエルン」の一員であつたという意識が受け継がれていることは巷間顕著な事実である。

第二、そこでまず、日本鉱業が日本土地から取得した控訴人の株式四五万株について、その取得経過を日本鉱業、日本土地および控訴人三社間の特別な関係から考察すると、次のとおりである。

一、日本鉱業の前身は、控訴人の取締役会長である鮎川の妹の夫久原房之助の創立した久原鉱業株式会社であり、久原の後を追つて鮎川が同社の社長となるに及んで社名を日産とし、昭和四年四月この日産から鉱業および附帯事業を分離して設立されたのである。そして、日本鉱業は鮎川がかつて掌握していた日産の傘下会社中最大の支柱的な子会社であり、傘下の各企業会社はこの日本鉱業を母体として生成発展するに至つたものである。

したがつて、鮎川個人ひいて鮎川の主宰する控訴人と日本鉱業は現在でも特殊の縁故関係にあることは、日本鉱業が控訴人の最大株主となつているからみても否めない事実である。

また日本土地は、かねて控訴人の遊休資産の管理整理等をおもな事業目的とした会社であつたため、控訴人は同社の株式の大半を保有し、その経営を支配し得る地位を確保していたこともあり、控訴人とは密接なつながりを有していたのである。

二、しかして、日本鉱業が取得した日本土地名義の控訴人の株式四五万株は、控訴人の昭和三〇年四月の第一五回の増資新株四五万株であつて、右新株が日本土地名義になつたのは、右新株発行の際、金二億八千五百万円の金員が特別な関係にある日本鉱業、日本土地および控訴人の三社間において移動したことに起因する。

(一) すなわち、日本土地は、昭和三〇年四月二一日金一億円を同年四月三〇日金一億八千五百万円をそれぞれ日本鉱業から借受けたが、即時その使用目的がなかつたとして、控訴人の申出により、日本土地が日本鉱業から借入れたのと同一条件で、即日これを控訴人に貸付け、控訴人から翌昭和三一年四月二三日金一億八千五百万円を、同年四月二四日金一億円の返済を受けるや直ちにこれを日本鉱業に返済している。

この事実は、いわば日本土地は通り抜け的存在であつて日本鉱業が直接控訴人に貸付けたことと実質的な相違はないのである。

(二) ところで、控訴人は、右のうち金一億円について、日本土地に対し貸付金四千万円、立替金その他引当金一千五百万円、増資払込金四千五百万円(控訴人の第一五新株(額面百円)四五万株の増資払込金は四千五百万円であつて、その払込期日は昭和三〇年四月二五日であつた)の三口に分割して、関係諸帳簿類を整理するよう依頼し、日本土地はその請託を受けて請託どおりの記帳整理を行なつているのである。

(三) 更に、日本土地は、昭和三一年四月二四日控訴人から金一億円の返済を受けたことに伴い、帳簿上右日附にて右増資新株を日本土地が控訴人に譲渡したことにし、控訴人もまたそれに符節を合わせ、その後昭和三一年六月三〇日に至つてそれを日本鉱業に移転した旨の記帳整理を行なつているのである。

一方、日本鉱業は日本土地および控訴人の右のごとき帳簿上の記帳整理にもかかわらず、右金一億円の返済に先立つ昭和三一年三月三一日にそれを取得した旨の記帳整理を行なつているのである。

このように、控訴人が日本土地から株式の譲渡を受けたとされた日以前に、日本鉱業が控訴人から株式を取得したとして記帳整理をしていることは、前述のように、日本土地名義の控訴人の株式が日本鉱業から日本土地を通じての控訴人への貸付に随伴して生じたという事実と相俟つて、日本土地、控訴人の記帳整理のいかんにかかわらず、そもそも日本鉱業が当初から日本土地名義人の株式の誕生に加担しやがて自ら名義株として保有するに至つたことを示すものであつて、しかも日本鉱業が長期間名義書換をしないのにもかかわらず控訴人および日本土地の両社間に何らの確執も誤解も生じていないことは右三者の並並ならぬ特殊関係があることにほかならないのである。

ちなみに、日本鉱業は、その後控訴人の昭和三一年七月に行なわれた第一六新株三〇万株の増資、昭和三三年一月に行なわれた第一七新株三〇万株の増資についても、これを一手に引受けているが、これは日本鉱業と控訴人との特殊な関係を示すものにほかならず、前記の日本土地名義の株式もその外面上の操作はともあれ、実質的にはこれらの属資新株の引受と軌を一にした内容をもつているものと考察することができるのである。

第三、次に、日産火災についてみるに、右会社は昭和一二年六月貝島家の事業として経営されていた中央火災海上傷害保険から現在の日産火災海上保険と社名を変更し、日本鉱業と並んで「日産コンツエルン」傘下の有力関係会社となり、これと時を同じくしてその重役陣は日産並びに日産系各社の幹部によつて固められ、かつ、鮎川は同社の取締役会長に就任したこともあり、鮎川と控訴人との関係からみて、右会社は控訴人とも緊密な関係にあり、また、日産火災は「日産コンツエルン」の主柱的な存在であつた日本鉱業の株式を昭和三二年三月現在で一二〇万株を保有していたことからして、日本鉱業等と特別な関係にあるものである。

第四、以上によつて明らかなごとく、日本鉱業、日産火災、日本土地および控訴人の各社は各社相互間あるいは控訴人との間に「いわゆる日産コンツエルン」の主宰者であつた鮎川を介して特別な縁故関係にあり、また戦後日産コンツエルンは解体されたとはいえ、右各社は株式の持合い資金の融資などを通じて日産コンツエルンの関係を継続し、日産グループの一員として結集され再編成されているのであつて、かかる意味において日本鉱業、日産火災、日本土地は「いわゆる日産コンツエルン」傘下の会社であるといえるのである。

したがつて、日本鉱業が日本土地名義の控訴人の株式四五万株および日産火災名義の控訴人の株式二四万五千株を取得し、その後長期間名義書換が未了であつた事実は、単純な名義書換遅延ではなく右のごとく特別な関係によつて日本鉱業においていつでも容易に白紙委任状を取り付けることができ、実質的に控訴人に対し、株主権を行使することができる状態にあつたればこそ長期間名義書換を行なわなかつたものであつて、右のような事情にある株式については、当然に、日本鉱業の持株数に加算されるべきである。

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